神戸の灘中学・灘高校で50年間、教壇に立ち、同校を屈指の東大進学校に押し上げた伝説の国語教師と呼ばれた橋本武という先生がいます。
橋本先生の授業は非常に特異で、教科書の代わりに、中勘介の『銀の匙(さじ)』という一冊の小説を唯一の教材として、授業を行いました。
『銀の匙』は、明治期の東京下町に住む少年の幼少時代の細密な日常体験が綴られた内容です、あの夏目漱石をもってして「未曾有(みぞう)の秀作」と絶賛したほどの美しい日本語で書かれた作品です。
橋本先生は、およそ200ページある『銀の匙』を生徒たちに中学3年間かけて読み込ませました。
単に作品を熟読・精読するだけでなく、作品中の出来事や主人公の心情や追体験にも、重点をおき、頻繁に横道にそれながら、様々な方向へ自発的に興味を促す工夫が凝らされた授業だったそうです。
先生は「すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなる。そういうことを私は生徒たちに教えようとは思わない。なんでもいいから、興味をもったことを、どんどん自分で掘り下げて欲しい。私の授業で、生徒たちにそのヒントを見つけてもらいたい。」という信念をもっていました。
当時は「横道に外れすぎではないかと」批判的な意見が多くあったそうですが、先生の信念と実力と情熱により、当時、公立高校より格下と考えられていた同校を飛躍的にレベルアップさせたそうです。
このような奥の深い授業は、誰でもが簡単に提供できるものではありません。しかし、教師も親も子供を伸ばすということについて、何が大切かを理解しさえすれば、子供たちを良い方向に導き、答えに近づけることは可能です。
この橋本先生の授業から得られる学習のヒントはいくつかあります。
- 興味がなければ身につかない。
- 深く掘り下げないと、本当の興味はもてない。
- 『質より量』の学習より、ゆっくりと掘り下げる『量より質』のほうが、頭に残る。
というようなことです。勉強するということは、『思考のパーツ』を増やすことです。
そして、もとあった『パーツ』に新しい『パーツ』が結びついたとき、相乗的に『パーツ』は増えていきます。
しかし、結びつく『パーツ』がなければ新しい『パーツ』は頭の中に残りません。
そして、新しい『パーツ』を頭に残すためには、それに対して興味を抱かなければなりません。
監修:芳谷真宏(現役高校生進学指導専門塾『大志学園』学長)
大志学園では、受験と直結していない時期にこそ、学習の基盤があると考えます。 この時期にこそ、試験問題への対応方法や得点取得法というような即物的な指導だけではなく、興味を持たせるような指導ができます。 そして、小学生から中1くらいまでの、本格的に学習する前の段階で、どれだけ『パーツ』が頭の中にあるかで、将来どれだけ伸びるかが決まっているとも言えます。